JOCWについて

「日本オープンコースウェアコンソーシアム(JOCW)」は、日本におけるオープンコースウェア(OCW)をはじめとするオープンエデュケーションの普及活動を行う団体です。大学や企業等で構成される会員団体の間でオープンエデュケーションに関する情報共有を図るほか、国内に向けて日本におけるオープンエデュケーションの普及活動を行っています。加えて、国際的なオープンエデュケーション普及団体であるOpen Education Consortiumに加盟し、世界的なオープンエデュケーションの活動に参画しつつ、国内に向けた情報提供を行っています。

  JOCWのこれまでの活動については「JOCWの歴史」をご覧ください。

参加団体の活動(1)北海道大学

北海道大学オープンエデュケーションセンターでは、OERの開発と活用を通じた教育改善を推進しています。学内教育に用いるeラーニング教材の開発と授業への導入、OCWやMOOCの公開に取り組んでいます。

北海道大学はオープンコースウェア(HU-OCW)を開設しています。最近では、農学研究院で実施された「食と農に関するリスクコミュニケーション」での7講義を配信しました。本講義は大学内に今のところ存在しない座学でのリスクコミュニケーション教育と、それを受講した上での実社会での対話の取組を行う学内外向けカリキュラムの一部をオープン教材として公開したものとなります。また水産化学研究院が中心となって実施された『食物の発酵と熟成』(第3回北海道食文化研究会セミナー)を公開しました。発酵食品の味について味覚センサーを用いた研究を紹介しています。

北海道大学オープンコースウェア https://ocw.hokudai.ac.jp/

OERの開発については、保健科学研究院で実施しているベッドメイキング等の実技の見本を撮影し、学内向けに配信しています。学生が繰り返し視聴することで実技試験対策に用いられています。
教材改善活動もOERを活用することと並行して進められています。演習科目「大学生のための情報社会入門」では、OERを用いて反転授業が開講中です。今後学生のビデオ視聴データやクイズの回答状況などについて、開発した可視化ツールを用いて分析作業を行う予定です。

MOOC「戦争倫理学」

そして、講義で活用したOERを利用したMOOC開講の準備も行っています。本学では毎年1つMOOC開講を実施することを目標に活動しています。最近では「戦争倫理学」の再開講を実施し、先月4月末日をもって無事閉講となりました。今年度は、教養教育での演習科目である「放射線・放射能の科学」で用いている反転授業向け教材をもとにしたMOOCを開講予定です。

Open Education Leadership Summit 参加報告

2018年12月3-4日の二日間に渡り、フランスのパリにて開催されたOpen Education Leadership Summit(OELS: https://www.openeducationleadershipsummit.com/)に参加した。日本人の参加は私を含め5名であった(うち国内の組織からの参加は3名)。OELSはOpen Education ConsortiumとInternational Council for Open and Distance Educationの共催であり、政府関係者や大学関係者などオープンエデュケーションに関するプロジェクトや政策決定のリーダーシープを執る役職者向けの会議である。そのため参加は招待制となっており、当日は200名弱の関係者が世界各国から集まった。

“Doing conference”とも呼ばれたOELSの大きなテーマの一つが、オープンエデュケーションについての「ロードマップ」作成であった。参加者が各自の取り組むプロジェクトやアドボカシー活動についての現状を、予め指定されたフォーマットに従って可視化し、今後2年間の計画を立てるといったものだ(ロードマップについて詳しくはこちらを参照:https://www.openeducationleadershipsummit.com/roadmapping)。参加者は一日目にそれぞれのロードマップを完成させ、二日目には関心が共通する参加者同士でグループを組み、ロードマップを参照しつつ今後オープンエデュケーションを推進するにあたってのディスカッションをおこなった。

各自がそれぞれの取り組みを可視化することで、グループディスカッションの内容も深くなり、時間を忘れて活発に議論する様子が見られた。また、会場には自由にアイデアを掲載できるスペースも設置され、参加者同士の新しい議論やネットワークづくりの場となっていた。

これらの「ロードマップ作成」活動と並行し、百メートルほど離れた別会場ではパネルディスカッションが行なわれていた。参加者はロードマップの進捗具合や興味によって会場を行き来できるようになっていた。パネルディスカッションのテーマのリストを以下に記す:

  1. Different Forms of Openness: open access, open educational resources, open science, open government…
  2. Dialogue between Anglophone and Francophone Worlds of Education
  3. Open Education Recognition
  4. The Commons of Education. General, legal, norms and role of teachers’ associations
  5. Open education and the UN Sustainable Development Goals
  6. Perspectives from the Global South

パネリストは主に国際機関関係者、政府関係者、研究者であり、政策やビジョンの制定といったマクロレベルの議論が行なわれた。ここでは、特に興味深かったパネルディスカッションについて簡単に紹介したい。

Open education and the UN Sustainable Development Goals

本パネルディスカッションでは、UNESCOパリ本部のOER担当者およびUNESCO Chairの欧州の研究者が二名パネリストとして参加し、インドのUNESCO支部に勤務する国連職員が司会を担当した。本パネルでは国連が2015年に制定した、2016年から2030年までに各国が取り組むべき国際目標であるSustainable Development Goals (持続可能な開発目標 (SDG): https://sustainabledevelopment.un.org/sdgs)とオープンエデュケーションがどのように関連しているかについて議論が行なわれた。17ある国際目標のうち、実に5つの目標(目標 4, 5, 9, 10, 16、以下参照)がオープンエデュケーションと関連すると述べられた。オープンエデュケーション政策の方針は各国それぞれ異なっているのが現状であるが、SDGという国際的に共有された達成目標に関連付けてオープンエデュケーションを推進することが有効的だといった議論がなされた。

  • 目標4: Quality education
  • 目標5: Gender equality
  • 目標9: Industry, innovation and infrastructure
  • 目標10: Reduced inequalities
  • 目標16: Peace, justice and strong institutions

Perspectives from the Global South

OELSには、いわゆる “Global South”と呼ばれる開発途上国からの参加者も多く見られた。本パネルディスカッションではメキシコ、コロンビア、南アフリカ、そしてオーストラリアから招かれたパネリストがそれぞれの取り組みを議論した。中でも、ケープタウン大学の教員でUNESCO Chairも務めるCheryl Hodgkinson-Williamsが紹介したROER4Dを取り上げたい。ROER4DはResearch on Open Educational Resources for Developmentの略称で、開発途上国でのOERの実証研究を行なう目的で2013年に発足した(2017年で終了)。これまでに21カ国で18の研究プロジェクトを実施し、研究に関わるツールキットや出版物など様々な研究アウトプットを公開している。これらの研究結果は開発途上国のOER使用に関する現状を知る貴重な資料であると同時に、オープンエデュケーションを推進する上での開発途上国特有の文化的・社会的障壁も明らかにしている。詳しくはROER4Dのウェブサイト(http://roer4d.org/、また当日のプレゼン資料(https://www.slideshare.net/ROER4D/open-education-and-social-justice-in-the-global-south-opportunities-seized-missed-and-to-be-grasped-124883533)を参照されたい。ROER4Dは2018年7月よりDigital Open Textbooks for Development (DOT4D)と名を変え継続しているとのこと。

あっという間の滞在であったが、各国から集まった専門家との議論を通して気づきが多く得られた二日間だった。会場で出会ったある参加者は、世界全体として国際的に目指す方向性が明確に提示されなかったことを残念がっていたが、個人的にはそれは良いことだったと感じている。オープンエデュケーションの定義や取り組みの分化が進んでいる中、社会的、文化的文脈が異なる国の間では、目指すオープンエデュケーションの成功のかたちも異なるはずである。そういった意味では、今回の参加者各自がロードマップを作成し持ち帰ることで、それぞれの文脈に即したオープンエデュケーション発展の鍵を探ることを促進するねらいもあったのだろう。一年後、二年後に再びロードマップを用いて取り組みを振り返るのも良いかもしれない。 より詳細な内容に興味のある方は、OELSの公式報告書(OELS Final Report: https://drive.google.com/file/d/18Vrz3yvw9mP2P-1QBQQcxiYAEtWrg59m/view)およびいくつかのパネルセッションの動画(https://www.oeconsortium.org/2018/11/oec-and-icde-hosts-the-inaugural-open-education-leadership-summit/)をご覧ください。

報告者プロフィール

永嶋知紘(ながしま ともひろ):米国カーネギーメロン大学 ヒューマン・コンピュータ・インタラクション・インスティテュート博士課程所属。研究内容は学習科学、教育工学、オープンエデュケーション。北海道大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター特定専門職員、スタンフォード教育大学院修士課程を経て、現在に至る。クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、Global OER Graduate Network (GO-GN)所属。